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高松地方裁判所丸亀支部 昭和42年(わ)222号 判決 1968年5月30日

主文

被告人神原庄市を懲役一年六月に、被告人香川敏春を懲役一年二月に各処する。

被告人両名に対し、この裁判が確定した日からいずれも三年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用中、証人鎌田孝義、同高木重義、同大前款円、同趣智粂夫に支給した分は被告人神原庄市の、証人田中秀一に支給した分は被告人香川敏春の各負担とし、証人宮本種美に支給した分は被告人両名の連帯負担とする。

理由

罪となるべき事実

被告人神原庄市は香川県身体障害者協会丸亀支部の事務局長、被告人香川敏春は同支部副会長であったものであるが、香川県身体障害者更生相談所が昭和四一年一二月一日巡回相談を実施した際、被告人香川が身体障害者指定医宮本種美から身体障害者に該当しない者に対する診断書一五通を預ってこれが手許にあるのを奇貨とし、身体障害者でない者に身体障害者手帳の交付を受けさせようと企て、被告人両名共謀のうえ、翌一五日丸亀市魚屋町一番地の三被告人神原方において、行使の目的をもって、被告人香川において、医師宮本種美の記名捺印のある聴覚の身体障害者に該当しない受診者雁木恒子に対する身体障害者診断書の、裏面オージオメーターグラフ欄の身体障害者に該当しない位置に記入してあった赤および青鉛筆の○印などを消ゴムで抹消し、被告人神原の指示に従って、同グラフ欄の身体障害者に該当する位置に改めて赤および青鉛筆を使用して○印などを、裏面の空白となっていた聴力記入欄の右欄に60左欄に65とボールペンで、更に表面身体障害者福祉法第一五条第三項意見欄の空白となっていた箇所に該当等級二、一、6とボールペンで各記入し、もって右雁木恒子が聴覚障害六級により身体障害者に該当する旨の前記医師宮本種美作成名義の身体障害者診断書(証第一号)の偽造を遂げたほか、別紙犯罪表記載のとおり、前同様の方法で、香川孔一ら一二名に対する同人らが聴覚障害により身体障害者に該当する旨の前記医師宮本種美作成名義の身体障害者診断書一二通(証第二号ないし第一三号)を順次偽造し、被告人神原において、翌一五日前記雁木恒子および別紙犯罪表記載の香川孔一、戸倉喜三郎、大前当吉、山岡キクヱに対する身体障害者診断書を丸亀市京極通所在同市役所福祉事務所職員香川事美に香川県知事宛の身体障害者手帳交付申請書とともに提出し、情を知らない同人をして、これを同県庁内の身体障害者関係の事務を担当している同県更生部社会課係員へ逓送させ、同係員に対し、右偽造の診断書をあたかも真正に成立したもののように装って一括行使したほか、前同様の方法で、別紙犯罪表記載の5ないし12の偽造にかかる身体障害者診断書を、行使年月日欄記載の日時ごろ前記厚生部社会課係員に対し、あたかも真正に成立したもののように装って個別または一括して行使し、同係員らをして、右診断書を真正なものと誤信させ、よって、同県知事から右のような不正な方法により、同年二月末ごろ丸亀市福島町一九九番地雁木恒子方において、同人に対し身体障害者手帳一通の交付を受けさせたほか、別紙犯罪表「手帳受交付日」欄ならびに「交付場所および受交付者」欄記載のとおりの日時場所において、その記載の香川孔一ら一二名に対し、それぞれ一冊あて身体障害者手帳の交付を受けさせたものである。

証拠の標目≪省略≫

法令の適用

被告人らの判示所為および別紙犯罪表記載の各所為中、有印私文書偽造の点は刑法第一五九条第一項第六〇条に、同行使の点は同法第一六一条第一項第一五九条第一項第六〇条に、身体障害者福祉法違反の点は同法第四七条刑法第六〇条に各該当するところ、各有印私文書偽造、同行使、身体障害者福祉法違反の罪は、いずれも手段結果の関係にあり、かつ判示および同犯罪表記載の1ないし4の各偽造文書行使罪、同犯罪表記載の7、8の各偽造文書行使罪は、一個の行為で数個の罪名に触れる場合であるから、刑法第五四条第一項前段後段第一〇条により、判示および同犯罪表記載の1ないし4の罪については判示偽造文書行使罪の刑に、同犯罪表記載の7、8の罪については7の偽造文書行使罪の刑に、同犯罪表記載のその余の罪については各偽造文書行使罪の刑に従い、以上は刑法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四五条前段第四七条本文第一〇条により、いずれの被告人についても犯情最も重いと認める判示偽造文書行使罪の刑に法定の加重を施し、その刑期範囲内で、被告人神原圧市を懲役一年六月に、被告人香川敏春を懲役一年二月に各処し、情状により刑の執行を猶予するのを相当と認め、同法第二五条により、被告人両名に対し、この裁判が確定した日からいずれも三年間右刑の執行を猶予し、訴訟費用の負担について刑事訴訟法第一八一条第一項本文第一八二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 美山和義)

<以下省略>

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